何のために生きている?

と問われれば、もっと幸せな人間社会が見たいから

ということで、

常務の下で働くことになったわけですが、これは勉強になりました。

 

営業経理として入金のチェックなどをしながら、伝票の仕分、損益計算書貸借対照表の作成までやらせてもらいましたし、総務や人事の仕事も手伝いました。

(手が空いているときに目を通した興信所からの調査書などもいい社会勉強になりましたねえ。う~ん、でしたよ。)

 

机の上にあるのはパソコンではなく算盤(ソロバン)の時代でしたから仕事はハードでしたけどね。

 

常務は近くにいると、意外に?いい人で、わたしが仕事に行き詰っているのを見ると、問題点を図に書いて説明したりもしてくれました。

 

それでも、やはり怖かったなァ。(笑)

 

あるとき、わたしが電話で話しているのを聞いていて、こんなことを言われたことがありました。

 

「おい、テレビを見てるか?」

 

わたしは当時からあまりテレビを見ない方だったので、そう答えると、

 

「テレビは毎日しっかり見ないとダメだよ。言うことがズレてくるからな。」

 

当時は「?」だったのですが、常務はテレビが洗脳、いや、社会のスタンダードを作り上げる道具だということを知っていたんでしょうねえ。

 

見かけは田舎ののんびりしたオジサン風でしたが、頭のいい人でしたよ。

 

この常務の下で働いていた期間は毎日が緊張の連続でしたが、それなりにやりがいはありましたね。

会社もうまく回っていました。

 

まァ、そのまま行っていればなんとかやっていけたんじゃないかな?と思うのですが、仕事も覚え、周りの人たちともなじんで平穏な日々を過ごしていた、ある日、常務から、

「近い将来、営業の方に回るかもしれないからその心づもりはしていろよ。」

と、言われました。

「え?」

ちょっとショックでした。

 

それで悩んで同僚や先輩と話をしてわかったのですが、常務の退職の時期が近づいていたんですね。

 

常務がいなくなれば、会社の体制はがらりと変わる。サラリーマン重役のつらいところです。ましてや子会社。

 

わたしも常務の庇護の下でそれなりの仕事をさせてもらっていたわけで、けっきょく常務が退職する前に辞表を出すことになりました。

(実はそれだけが原因というわけではなく、・・・まァその後いろいろあったこともあるのですが。←これは言えない。(笑))

 

辞めるとき、親しかった先輩社員が熱心に引き留めてくれたんですけどねえ、

わたしの退職の意志が固いと見ると、

「〇〇君は甘いね。この会社を辞めるともう一生これ以上の待遇の会社に勤めることはできないよ。世の中は厳しいんだから。」

そういってあきれたような表情をしていました、

 

が、

 

はい、まったくその通りでしたよ。(笑)

 

その会社を辞めて2年くらい経ったときだったかな?

偶然、同じ部署にいた女性社員と繁華街で顔を合わせることがあって地下街にある喫茶店で話をしたのですが、

常務がいなくなってからやはり会社はタイヘンだったとのことでした。

 

なんだかんだ言って、常務は本社との間で「防御壁」のような役割も果たしていたんですね。

本社からなにひとつ文句も出ないくらいにうまく会社を回していたわけです。

 

同じ部署の主任が少し前に亡くなったということも聞きました。

 

心筋梗塞ということになっているけど、本当は自殺だったのよ。もう会社にはうらみ骨髄だわ。」

 

とその女性社員は言って、泣きそうな顔で唇を噛みましたが、

 

ああ、そういえば、その女性社員はわたしよりもずっと先輩で、30歳近くで、美人なんだけど、結婚していなくて、

30歳を少し越えて独身だったその主任さんと親しかったような・・・?。

(そのときの様子で改めて、なるほど、と)

 

常務がいなくなった後の本社からの風はそれほど強かったということでしょう。

 

「〇〇さんはいいときに辞めたね。」

と言われたんですが、わたしはわたしで「トホホ・・・。」

辞めなきゃよかったかな~、なんて後悔している頃でした。

 

それにしても、いくら会社を掌握しようが実績をあげようが、子会社は子会社なんですね。

常務も最後は哀しかったんじゃないかな?

 

いつだったか、自分がいた大手銀行のトップ人事の新聞を見ながら、常務が課長に「ワシも(その銀行の)重役になれていたかもしれんなあ。」

と話していたことがありましたね。

 

仕事をしながらそれを聞いていたわたしは(・・・高卒では無理でしょ。いくら仕事ができても。)なんて思っていたのですが、

冗談めかしたその口調の裏にはちょっとした後悔もあったのかもしれません。

 

その会社の本社は学歴はまったく問題にしないという建前で、たぶん常務もそれで転職したのでしょうが、そういう会社ほどね、本当は極端な学歴重視だったりするわけですよ。とくに本社の主要ポストが特定の一流大学で占められていたりと。

 

わたしの出身大学なんてずっと採用ゼロ、「排除」されているようなものでしたから。

それに関しては前の社長も反発を感じているようでしたね。結構、反骨心のある人でしたから。

常務も会社の方針を順守しつつ、そう強くは社長に反対しなかったんじゃないかな?

それでわたしはけっこうな給料とボーナスをいただける何年間かを過ごすことができたと。(笑)

 

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もう、社長も常務も、お亡くなりになっている可能性が高い。(年齢的に)

 

社長には敬愛を、常務には尊敬をこめて、感謝しつつ哀悼の念を捧げます。(もしまだ生きておられたらゴメンナサイ。)

 

 

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しかし、こんな話でも、今の若い人たちの多くは古き良き時代のことと思うかも知れませんね。

現代の非正規労働制度なんて・・・考えられなかった。

 

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あ、そうだ。

2020.5/31からここまでのお話はすべてフィクションであり、特定の会社や個人とは一切関わりがありません。

 

ということにしておきましょう。(笑) (^^;)